The Best and Brightest──名品礼賛(1/5)

時代の潮流に決して呑み込まれることなく、ものづくりの真髄を受け継いだもの。名品と呼ばれるものには、礼賛すべき磨かれた技術と物語が宿っている。その美しくも揺るがない哲学を追う。


column

ビンテージテイストの醍醐味

text by Shinro Hayashi

パリやロンドンなど、古い歴史的な建物が残されている街を歩いていると、歴史も建築も通り一遍のことしか知らないぼくでも、そこに居るだけでなにやらシミジミとした懐旧心が湧いてきます。 逆に、東京やニューヨークのような、毎時アップデイトされているような街では、そのスピード感に負けまい、何かしなくてはと「前のめり」になっている自分がいます。どちらも同じ自分なのに、環境の影響ってすごい。

服も、それなしでは生きていけない、人間にとってもっとも身近な環境です。着ている服から影響を受けないわけはないし、逆もまた真なりで、そのときの気分が服のチョイスを規定することも多い。この秋について言うなら、ぼくは、古びていて、手触りと味わいがある、パリやロンドンの街並みのイメージとちょっとかぶる「ビンテージテイスト」という言葉が思い浮かびます。

自動車、家電などの道具やお金などの社会システムがすっかりIT化、AI化してしまった世の中への抵わだかまり抗感がそういう気分にさせるのでしょうか? シンプルで、ユニバーサル
なデザインよりも、見た目も袖を通した感じも、着る人の存在感と体ぬくもり温を感じるヒトクセのあるウエアや靴、バッグが懐かしいのです。

「ビンテージ」ではなく「ビンテージテイスト」とわざわざ書いたのにも理由あり。古着そのものの魅力を否定するものではありませんが、あえてそこにクリエーターの感性を挟むことで生じるケミストリーへの期待があるからです。その感性の方向が、デザインに向くのか、素材や色彩に向くのか、あるいは加工に向くのか。そのあたりの力点ですね。

たとえば70年代、80年代のテーラードジャケットの、幅広でゴージ位置も低いラペルやかちっとしたショルダーをどう始末するか。ラフなレザーウエアやフェアアイルなどのローゲージニットを現代にどうアダプトするのか。

古い時代のものに新しい血を注ぐクリエーターの力量を存分に楽しめる、「ビンテージテイスト」はなかなか高尚な男のお洒落アソビです。

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