Dressing Etiquette──装いのエチケット┃紳士のカフリンクスは加減乗除が不可欠だ -CUFFLINKS-

カフリンクスは口ほどにものをいう。どれくらい折り目正しい人なのか、どんなことに興味があり、趣味はなんなのか。場合によっては、誕生月だって語ってくれる。まるで、貴方のことを代弁してくれる、実に雄弁で、ユーモアの利く、友人のようだ。


►ビジネス
シンプルな金属製のカフリンクスは、ビジネスシーンにも有効だ。スタッズボタンをモチーフにしたようなデザインは、控えめなステートメントを醸し出してくれる。

<アリスメイドディス>
カフリンクス  左:19,440円、右:19,440円


紳士は一筋縄ではいかない


英国の著名なライフスタイル・コメンテーターとして知られるニック・フォルクス氏は、『MR CLASSICYESTERDAY&TOMORROW』(ジェレミー・ハケット著 万来舎)に寄せた序文で、ハケット氏の世界=つまりは紳士の複雑極まる構成要素について、次のように記している。『それは、わずかにエキセントリックで、辛辣なユーモアがあり、非の打ち所のないマナーに基づいた、謙虚でいて完全な世界なのだ』と。

このうちどれかが欠けても、鼻持ちならないキザに堕ちるか、逆にルールに縛られた石頭男に見えてしまう。つまりジェントルマンの装いには、加減乗除が必要なのである。この着こなしにおける算術を操るための最高の計算機のひとつが、我々の袖口を飾る小さなアクセサリー。すなわちカフリンクスなのだと思う。

►ホビーモティーフ
自分の趣味(ホビー)を反映させるのも、カフリンクスのおおいなる楽しみのひとつ。愛好するスポーツやペットなど、袖口の遊びから会話が広がるきっかけが生まれる。

<サツルノ>
カフリンクス 左:21,600円、右上:22,680円、右下:30,240円

►誕生石
誕生石のカフリンクスはラッキーチャームのひとつ。ダイヤやルビーなど貴石が誕生石の方は、高価な本物もよいが、誕生石に似た色石を取り入れるのも楽しい。

<タテオシアン>
カフリンクス 各31,320円
 
近代メンズモードが世界伝播を開始した19 世紀後半、裕福な人々は燕尾服には真珠貝などのカフリンクス、フロックコートにはシンプルな金属製のカフリンクスを用いていたという。こうした習慣がやがて、貴石入りのカフリンクスはアフターシックスに使用し、昼間のビジネスなどに使う場合は小ぶりな金属プレート製のカフリンクスを選ぶ、というルールが出来上がっていったのであろう。

不況が続くにもかかわらず礼装が多様化を見せた1930年代初めには、白いイブニングジャケットが流行した。このとき白や黒パールが多かったカフリンクスにも、赤(ルビー)、緑(エメラルド)、青(サファイア)といった色つきの宝石入りが登場したという。

またボールドルックが台頭した第二次世界大戦以降の一時期はシャツの袖口が大きくなり、これにともなってカフリンクスも大型のものが好まれるようになった。


►フォーマル
真珠貝、黒曜石、白蝶貝、黒蝶貝などのカフリンクスはフォーマル時に輝くもの。シャツにスタッズボタンを使用する場合は、カフリンクスと同素材で合わせるのが望ましい。

左:<WD>カフリンクス 11,880円
右:<ルイファグラン> カフリンクス17,280円


►ラッキーモチーフ
四つ葉のクローバー、ナナホシテントウムシ、カエルなど、さまざまな理由をつけて幸運を呼び込もうとつくられたカフリンクスには、紳士も人間、やはり弱いのである。

<サツルノ>
カフリンクス 左:19,440円、右上:29,160円右下:27,000円

複雑な趣味性を反映させて


筆者は一時期、カフリンクス収集に凝った時期があった。当時は流行圏外のアイテムだったこともあり、蚤の市などでもお手軽価格で入手できたのである。収集の過程で、この小さな装飾品には使用者のじつに複雑な趣味性が反映されていることに気づかされた。たとえば英国モノには、ジキル博士のハイド的側面というか、プレスの効いた白いフレンチカフス・シャツにグロテスクな虻(あぶ)のカフリンクスをとまらせて食事中の淑女のひんしゅくをあえて買うといった、露悪的な装飾品が少なからず存在する。

そのいっぽうで、愛車のワイヤーホイールを模したり、ペットの動物や誕生石などをカフリンクスに取り入れる楽しみもある。

現代のカフリンクスの多くは便利なクリップ式で、フォールド感を良くするためにつなぎのバー部分をカーブさせているので落とす心配は少ないが、昔のものは文字通り鎖でリンクされ、よく紛失したものだ。こんなときは、残った1個と関連した飾りものを合わせると面白い。

たとえばお気に入りだった黒猫のカフリンクスを紛失してしまったら、もう片方の袖口には猫の好物、魚のカフリンクをつけて再利用するという具合。

こんなツイストしたユーモアを解する人は、紳士としても完璧だろう。

文= 遠山周平
1951年東京都生まれ。「思索なき多見に益なし」が信条。最近はファドと革新者、モダニズムとクラスウエア、テクノロジーとサステイナビリティをテーマに服飾評論を展開。著書に『背広のプライド』『洒脱自在』などがある。

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