2015.08.23 update

【インタビュー】<MIGLIORE/ミリオーレ>岡本 良夫|愛してやまない、イタ飯の店で

岡本良夫が対談場所に指定したのはトラットリア・ピッツェリア・バール・サルヴァトーレ。骨の髄までイタリアンな岡本が手放しで褒めちぎる、中目黒にある名店である。店長の江頭辰夫とオンワード樫山の茂木洋とともにワインを口のなかで転がしつつ、座談会ははじまった。


左から、トラットリア・ピッツェリア・バール・サルヴァトーレ店長 江頭辰夫、オンワード樫山 茂木洋、スティービー店主 岡本良夫


365日イタリアン

茂木 ぼくも何度も連れてきてもらっているサルヴァトーレ。今日はこちらで店長の江頭さんとともに岡本さんのルーツを探るのがテーマです。
岡本 たいした話はないよ。まずはワインを呑もうよ。
茂木 いきなり煙に巻く。
岡本 チンチン!
茂木 (苦笑しつつ)覚えていらっしゃるかどうか、ぼくの初サルヴァトーレは花見の季節でした。ここは目黒川の桜が一望できる一等地で、もちろん予約で一杯。岡本さんの政治力です(笑)。何年かよっているんですか。
岡本 オープンほどなくからですね。知人の紹介で、かれこれ20年。むかしは銀座とか、赤坂とか、それぞれのエリアにお気に入りの店があったけど、いまではイタ飯といえばここばかりになってしまった。
茂木 旨いですからね。なんていったって、本場ナポリのピッツァ大会で何人もの入賞者を輩出しているナプレグループの一号店。


岡本
それはそうだけど、ぼくがかようのは店の雰囲気があってこそ。
江頭 お褒めいただき、ありがとうございます。しかし、はじめのうちは怖かったですね。メニューに見向きもせず、いきなり今日仕入れた材料を聞かれ、そこから料理を決めていくんですから。難題を突きつけられるたび、友人知人のイタリア人の叡智を結集した(笑)。
岡本 スカモルツァを焼いたのもそうだよね。
江頭 専用のココットも用意しました。だけど、食べるのはナポリのスタッフくらいで注文は出ない(笑)。
岡本 美味しいのにね。
茂木 合わせるワインはシチリアなどの南伊のものがお好きですね。
岡本 北のワインは繊細で、ガッツリした料理に合わないからね。


江頭 岡本さんの嗜好をとおして、わたしの世界もずいぶんと広がりました。
岡本 ぼくは店も一緒に成長してもらいたいって思っている。ワインは呑まないとわからないし、服は着ないとわからない。女性との付き合いにもいえる、深遠な格言です(笑)。
茂木 (笑いを抑えつつ)食後酒の品揃えが増えたのも岡本さんのリクエストとか。
江頭 グラッパなどオーソドックスなものしかなかったんですが、いまでは20種を超えています。でも、やっぱり頼むのは岡本さんくらい。悪くなるものではないけれど、いっぱい呑んでもらわないと困る(笑)。


茂木
年中イタリアンだそうですが、飽きないんですか。
岡本
まったく。イタリアに住んでいるころも、自分で日本料理の店にいこうとは思わなかったからね。最近こそ減ったけど、日本にベースを移してからも年に5回はイタリアへ遊びにいったもんです。
茂木
ご自宅にもかなりのワインがあるとか。
岡本
コレクターじゃないからガンガン空けちゃうけど、それでもいまも40本近くあるんじゃないかな。とくに赤ワインは仕上げに欠かせない。
江頭
どんな流れで呑るんですか。
岡本
夏ならスコッチの水割りを2杯呑って、チーズやオリーブオイルのトマトで赤ワイン。その合間に雲海を少々。
茂木 雲海が入るんですか(笑)。


イタリアの魅力はそのシルエットにあり

茂木
そもそものイタリアへ渡る経緯を教えてください。
岡本
最高の服がつくりたかったんです。それにはやっぱりイタリアです。なかでも一番はナポリ。服もピッツァも原点はナポリなんです。
茂木 いつごろの話ですか。
岡本
かれこれ35年前ですね。
江頭
(茂木さんとともに感嘆の声をあげつつ)で、イチからモノづくりの技術を身につけられたんですね。
岡本
いえいえ。イタリア人のモデリストに基礎を叩き込まれたうえで乗り込みました。勤め先の商社で出会ったカミーロ・リーガスという男です。イタリア滞在の保証人になってくれたのもカミーロでした。渡伊の目的は学んだことの確認であって、むこうに住んだ4〜5年のほとんどは駐在員として働く時間のほうが長かった。だいたい丸腰でいって太刀打ちできる相手じゃありません。日本のスーチングしか知らないと、すでにそれなりのキャリアにある技術者でさえ理解できませんからね。
茂木
なるほど。
岡本
もっと大切なのは、どっぷり浸かること。島国根性を捨て去ってはじめて、得るものがあるんです。たとえばディナーの席で仕事の話をするのはナンセンスですよ。ちょっとエッチな会話くらいできないとかれらは心を開いてくれません。フランクにみえてある意味、とてもコンサバなんです。


茂木
岡本さんは見事フトコロに飛び込むことに成功するんですね。
岡本 いまも家族ぐるみで付き合う友人が何人もいるよ。
江頭 フィレンツェの酒屋が閉店するとき、主人に好きなのを何本でももっていきなっていわれたって話には驚きました。
岡本 これは日本にベースを移してからの話だけど、むかし人気のエリアだったポルタ・ヴェネツィアでひとりレストランに入ったら、6〜7人のイタリア女がやってきた。それでいいワインを開けて、ひとりじゃ呑めないんでどうぞってやったこともあるなぁ。なんと、帰りの便のキャビンクルーで、おかげでずいぶんと親切にしてもらったよ。
茂木 まるでイタリア人だ。
江頭 ワインのテイスティングで、あなたもテイスティングできるんですか、とかいっちゃいますしね。しかも好みの子じゃないといわない(笑)。


茂木
女と酒の話ばかりじゃないですか。向こうで学んだことは?
岡本 う〜ん(すでに頬に赤味がさしている)。
茂木 (めげずに)それってたとえば色彩感覚とか?
岡本 太陽の色が違うからね。そのままもってきても日本では受け入れられない。重要なのは、ライン。
茂木 感性の部分ですね。
岡本 感性とはできあがったプロダクトに対していわれるものであり、つくり手に求められるものはもっと深い。ま、島国の人間が理解するのは難しいのかも。
茂木 岡本さんは根っからのイタリアーノだったわけですね。
岡本 たしかにぼくのメンタリティは子どものころからあまり変わっていないと思う。実家が肉屋と酒屋に挟まれていて、実家の地下階クラブだったの。24時間呑んで食べて遊んでいました。だけど、食事の仕方、酒の呑み方をきちんと覚えたのはイタリアに暮らしてからですね。
江頭 ライフスタイル全般がイタリアなんですか。
岡本 そうね。音楽はサルサが好きだし、インテリアもそんな感じかなぁ。ブリオーニのジャケットの下にゲームシャツを着たりしてね。
茂木 あれは元アルゼンチン代表のベロンじゃないですか(笑)。

 
岡本良夫
<スティービー>店主。<ミリオーレ>を主宰する岡本良夫氏は、イタリア仕込みの優雅な曲線を生み出す実力派。ラペルから裾にかけて“6の字”を描く「シックスフロントジャケット」をベースにした彼のスーツは、身頃、袖、ポケット等、そのすべてが柔らかな曲線で構成されている。それは、クラシコイタリアのスーツのように、身体を背中から丸く包み込むような着心地を実現した。


トラットリア・ピッツェリア・バール・サルヴァトーレ
ナポリの国際ピッツァ大会で入賞者をあまた輩出しているナプレグループの老舗。
■住所:東京都目黒区上目黒1-22-4
■電話番号:03-3719-3680
■営業時間:バール 11:00〜23:00、トラットリア・ピッツェリア 11:30〜14:30(LO)・18:00〜22:00(LO)・年末年始休
■URL:http://www.bellavita.co.jp/salvatore


Text:Takegawa Kei
Photo:Fujii Taku

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