2016.08.11 update

【インタビュー】<ED ROBERT JUDSON>江崎 賢|相反するものが融け合って生まれる、新しくも懐かしいデザイン

エド・ロバート・ジャドソンとは自由なもの作りを提示する為に、生まれた架空の職人。それは、大量消費が中心の現代において、古き良き時代に少し夢を馳せる様な懐かしさを醸しながらも今までにない新しいアプローチとの融合で得られる不思議な世界観を演出する為の設定である。
そんな、架空の職人が生み出すアイディアツールをコンセプトにデザイナーの江崎賢は立ち上げ時に、固定概念に縛られない、新しいものづくりを誓った。


「2009年にブランドを立ち上げ、7年ほど経ちますが、基本的なもの作りへのアプローチは変わっていません。エド・ロバート・ジャドソンという架空の職人がつくる、ちょっと発明チックなもの、一筋縄ではいかないもの。僕はもともとレザークラフトを学んできたわけではなくて、洋服を作ることからスタートしています」

江崎は社会人になり、某アパレル企業で働きながら、趣味でレザークラフトを行っていた。そしていつしか、「新しいものを、みながワクワクするようなモノを生み出したい」と<エド ロバート ジャドソン>をスタートさせた。

そのアイテムから感じ取れるのは、人の手により生み出されたとはっきりとわかるクラフト感だ。丁寧に鞣され、ナチュラルな光沢を放つレザーに、バウハウス的な魅力を湛えた金属。近未来的でもあり、どこか懐かしくもある。


左/ 「HELIX」16,200円、右/ 「HOOKE」16,200円

「作りたいのは、日常生活の延長線上にあるアイディアツール。ファーストシーズンから作っているコインケースはブランドのアイコニックピースのひとつです。
一般的なファスナータイプの小銭入れのスライドで開口させる動作はそのままに、ファスナーの代わりとしてバネを用いています。そして、閉じるときはバネの力でワンタッチで閉じることができる。そういった機能とデザインを両立させた、新しいアイディアを作品の中で提示しています」

そしてこのような作品は、エド・ロバート・ジャドソンの名前の由来とも大きく関係があるのだ。

ファスナーを発明したのは、19世紀アメリカの発明家ウィットコム・L・ジャドソンだと言われている。また、ニュートンよりも先に重力の存在に気づいていたとされるロバート・フックは、バネの弾性の研究で、教科書にその名を残す。バネとファスナー。このブランド名は2人の天才の名を取ったものなのだ。ファスナーの代わりにバネで開閉するコインケースは、上記の2人の天才にオマージュを捧げる形で生み出されたアイテムともいえる。


じゃあ、エドは?

作品の中には、日本の職人との関わりが生きている。例えば、頻繁に登場するバネは古い機械を巧みに操る町工場の職人。変わったギミックを支えるのは流れ作業ではなく、1から10までの行程を拘りをもって一人でこなす鞄職人。
革に至っては、姫路市に流れる川の水質でしか造る事のできない「白鞣し革」という素材を使ったアイテムも展開し、一般的に最良とされるイタリア製の革に対して日本製の革も引けを取らない独自の魅力を持つ事を世に発信している。

つまり、エドとは日本に根ざしたのもの作りへのこだわりをしめす”江戸”なのだ。だからデザインにも、”枯山水”を引き合いに出したくなるようなミニマルな美が宿る。アプローチは「極力削ぎ落とす」こと。時には「取り除く」まで突き詰めることで、本来の機能とはまったく違うものが生まれる瞬間がある。

「”ギャップ”というものをすごく大事にしていて、相反する素材を組み合わせたり、ある工程の逆のことをやると、不思議なものができあがる。例えば、自然的な革に人工的な工業用パーツを合わせる事も一つです。また、細かい目でハンドソーイングされたステッチはミシンの針目を目指しています。それは、手作業で得られる縫製の自由度や堅牢さを、機械の様に精密でさりげなく表現する為です」


「BUND」31,320円

もう一つ、アイコニックなアイテムがある。ゴムバンドで開きを固定をする2つ折りの財布だ。これは「バインダー式で、小銭入れや札入れなどのパーツがすべて取り外せるアイテム」だ。

「お札ではなくて、バインダー金具の規格を元に財布のサイズを決めています。。だから、一万円札がギリギリの大きさです。もっと余裕があればすんなり入るんですけど、そうなるとデザインを妥協しなければいけない。バランス取りが非常に重要なんですが、”難儀すること”も含めて、このブランドの魅力のひとつだと思っています」

利便性と合理性を追求し、デジタル化の波を受け入れ、かつてないほどぼくらは豊かになった。だが一方で、フィジカルな体験を本能的に求めているのは間違いない。だから、柔らかいレザーの手触りにうっとりと溜息を漏らし、予想外の動きをする金属に心動かされるのだ。


「メンズ館1階=メンズアクセサリーで扱うのは、国内外から揃った名門ファクトリーブランドが多く、<エド ロバート ジャドソン>は、実験的なコンセプトとしっかりとした日本のもの作りを両立させたデザイナーズブランドとして、他と差別化できると思っています。いろんな人に、語ってもらえるようなブランドになっていければいいですね」

実在しないデザイナー、エド・ロバート・ジャドソンによる意外性と温もりあふれるもの作り。江崎はこれからも、新たなデザインと価値を模索し続ける。

江崎賢
1984年生まれ。某アパレル企業にてデザイン、企画を担当。独学にてレザークラフトの製作に取りかかる。そして、2009年、<エド ロバート ジャドソン>を立ち上げる。その後も、独創的なアイディアで、日常に寄り添うアイテムを世に送り続けている。


Text:Morishita Ryuta
Photo:Ozawa Tatsuya

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