2016.02.18 update

【インタビュー】体温ある機能服──上出大輔が手がけるブランド<TEÄTORA/テアトラ>とは。

デビューは、わずか2型のボトムス。「アーロンチェアに座って働く人のためのパンツ」と「イームズラウンジチェア&オットマンに座るためのパンツ」。上出大輔がニッチな領域に少数精鋭の2型で勝負に出たのには理由があった。



上出大輔
2013年<TEÄTORA/テアトラ>をローンチ。メンズ館5階=メンズテーラードクロージングでは、2月17日(水)から3月1日(火)までパッカブルシリーズに特化したポップアップストアを開催。サイズ展開は46から52まで。ほぼ全色を揃える展開はTEÄTORAとしても初となる。http://teatora.jp/



「構想としてはもう少し型を用意していました。でも1型につき20回以上も試作を重ねたため、ファーストコレクションに間に合ったのは2型だけだったというのが現実です」

「じつは」と吐露した飽く無き追求が逆に奏功し、"わずか2型のボトムスでスタート"したことが話題となる。さらにはハーマンミラー・ジャパンの公認を得たことで、クリエイターを中心とするノマドワーカーから注目を集めることとなった。


ブランドの立ち上げから参画した前職では8年に渡り指揮を執った。東京コレクションに参加しランウェイショーも経験。華やかな東京モードを駆け抜けた先にあったのは、緻密に計算された都市生活者のためのユーティリティウェアの世界。それが、これまで上出が手がけてきたクリエーションとは逆行するようにさえ見えることを尋ねると、それは上出自身も理解しているという。

「独立したときに心に決めたのは、既存の服作りのプロセスから脱却すること。実際のところ既存のアパレルメーカーが、1シーズンに100も200も新作を投入するのは無理があると思うのです。家電や自動車をはじめとする一般メーカーでは、半年から1年を掛けて社運を賭けた1型ないし少数型の新商品を投入します。<テアトラ>では100型200型作らないかわりに、その全ての費用や時間を1型だけに偏らせて投入することで、圧倒的な1型を開発するべきであるという理念のもと、研究、開発をしています」


上出は春夏、秋冬のコレクション期にテーマを設定しない。唯一掲げるコンセプトは「頭脳職のための機能服」だ。クリエーターのパフォーマンスを、最大限向上させることを目的に開発したリアルクローズの登場に、東京のみならず世界中が注目している。先日のロンドン・コレクションでは、期間中、世界最大のファッションECサイト「MR.PORTER」に「BEAMS」がキュレーションした9つの日本ブランドの一つに選択された。

「クリエイターに限らず、知性に基づいて働く人々を意識しています。ファッションシューティングをしないこと、特定の男性像を用意せず、匿名性を意識しています」

ウェブサイトにはギアチャートを掲げ、全コレクションを縦軸に「ワークスタイル」、横軸を「TPO」としてカテゴライズする。極めてロジカルに、ストイックに展開されるコレクション。機能に特化した実用主義は、繊細なるプラグマティズムに則っている。


ハンズフリーのカテゴリーに属すデバイスコートとデバイスジャケットは、旅の荷物を最小限に納めることを目的としたパッカブル仕様。腰ポケットにはiPadが収納できる。内側には各種デバイスの収納に適したユーティリティポケットが配置され、ベンチレーションシステムからはインナー及びボトムズのポケットへのアクセスも可能だ。フロントダーツかと思いきや、ここもジップが取り付けられておりインナーアクセスを可能にしていた。

 
 
 
 


ウォレットパンツはセキュリティのカテゴリーに属し、座ることを前提とした意匠からバックポケットを排し、座ったままアクセスしやすいようにサイドポケットはL字に切られている。ウェスト内側のマーベルトに沿って取り付けられたセキュリティポーチは、そのままパッカブルポーチとして転用ができる。素材はデバイスコート&ジャケット同様、ドライタッチのナイロン。シワになりにくく、余計な装飾を削ぎ落としたミニマルデザインと、ユーティリティ性能を高度な次元で融合した、完璧なまでの機能服である。


極めて無機質に、そして緻密に計算し機能追求する上出のアートワークは、正しい答えだけを弾き出すコンピュータの産物のようにも見える。正確無比な計算機のように、冷徹なデザイナーのように捉えられるが、ふと上出が口にした言葉には人間の体温があった。

「夢を語り合う友人や尊敬できる人たちの役にたちたい。誰かのために服をつくるなら、好きな人たちのために作りたいから...」


Text:Ikeda Yasuyuki
Photo:Okada Natsuko

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